（スタッフ）

イラン映画

製作＝アッバス・キアロスタミ

撮影＝ホユマン・バイヴァール

（コメント）

　世界的な映画監督による味わい深い映画だ。それは、アンゲロプロスの映画とは、正反対な創られかた（内容）だとしても、その映画への方法的アプローチが優れて映画的であるという共通性をきちんと記憶に止めておこう。（こうした映画作家には、ベンダース、タルコフスキー、ゴダール、黒澤明、ヒチコック、スピルバーグ、小津安二郎、溝口健二、フェリーニ）。映像が生きていてエロス的である。エロスとは正反対にある日常的題材が選ばれているが、映像は実験的であり、スリリングでさえある。車の窓からの映像が、男の視野として映し出される。道行く人が、男の視野としての映像に飛び込んでくる。ここの映像は微妙だ。飛びこんできたとき、男の視野から切り取られた映画一シーンへと変貌する妙が、方法的であり、映画的なのだ。歩く男が見ている世界のすべてを映し出すことに禁欲的であることも映画的である。
　自殺をもくろむ男が主人公だ。ストーリーはシンプルだ。男は生の意味を見いだしたのか。ルーマニアの哲学者シオラン「自殺できるという可能性がなかったら、私はとうに命断っていただろう」に出会ってこの映画が発想されているという。こうした哲学的主題は、映画的主題でもある。（1998.9.12）

（キャスト）

ホマユン・エルシャディ
アブドルホセイン・バゲリ

公開年月：1998.1
製作年：1997

映画館＝館内アカデミー