（スタッフ）

製作＝ゴフレード・ロンバルト

企画＝

原案＝ジョヴアンニ・テストリー（ギゾルファ橋）

撮影＝ジュゼッペ・ロトゥンノ

音楽＝ニーノ・ロータ

美術＝マリオ・ガルブリア

編集＝マリオ・セランドレイ

衣裳＝ピエロ・トージ

（コメント）

○180分の大作である。原題は「ロッコとその兄弟たち」。イタリア南部から北部のミラノに、父を失った家族が、長男（ヴィンチェンツイオ）が住むミラノに移住してくる。南部での悲惨なくらしを「アルファメロ」の自動車工場で勤めた四番目のチーロがいう。･･････と奉仕の暮らしだったと。

三番目のロッコは、南部の故郷を出てくるべきではなかったと感じている。二番目のシモーネは、ボクサーになる。長男は妻の実家の反対はあるが、小市民的な幸せ求め一児の父親になっている。五番目のルーカは、まだ十代の前半だろう。これが、ロッコとその兄弟たちである。

○シモーネは、ボクサーになるが、その栄光と転落が悲惨である。ロッコはボクサーとしての素質を見込まれ兄の後を継ぐことになる。兄以上のボクサーとして成功を手に入れる。ここに、娼婦ナデイアが介在し恐ろしい三角関係を形成する。「天井桟敷の人々」が「三角関係」を根幹に据えていたように、この映画も家族愛を背景に兄弟の「三角関係」を鮮烈に描いている。

○ナデイアは、貧しく、めぐまれない家庭環境に育ち、親からは疎んじられている。娼婦として生計を立てながら犯罪に荷担する。兄のシモーネはナデイアに惚れる。遊びともとれたが、ナデイアが消息を絶っても思いつづけていたことがわかる。

ロッコも最初の出会いから悪く思っていないが、夜中に起こされ、兄への伝言を頼まれる。兄に「別れ」の伝言伝えたときに、「今度道であっても、無視してやるぞ」と子供っぽいことを言って、毛布にくるまって、泣いているようでもあった。

○ロッコは兵役に２年行く。そのころに、消息を絶っていたナデイアに出会う。実は、刑務所に入っていたことが知らされる。ロッコは優しく労る。ナデイアは、ロッコの優しさに、左目から涙が一筋流れる。それをサングラスで隠す。ちょっと、記憶があやしくなったが、ナデイアを殺したことをロッコに告げたシモーネの右目からも、一筋の涙が流れるというシーンがある。

○ロッコとナデイアがつき合っていることをシモーネは知らなかった。ここは、少しわかりにくいのだが、嫉妬する兄は、ロッコとナデイアを、仲間に見はらせ、ふたりを包囲するように、近づく。

わかりにくいというのは、わたしたちは、ロッコの気持ちで映画を見ているから、シモーネがなぜそこまでするのかわからない。しかも、さらに、ロッコを仲間が押さえているところで、ナデイアを犯して見せるという鮮烈な場面へと展開していく。「人間のクズだ」とナデイアに罵倒される。このあと、ロッコとシモーネの殴り合いが延々と続く。

これは、シモーネの嫉妬と怒りがどうしても収まらないために執拗にシモーネはロッコに殴りかかることになる。もっｔ驚くのは、翌日、ロッコは、ナディアに会い兄ところへ戻ってやってくれという。ナデイアは当然のように拒絶するがロッコは聞かない。

現に今、ロッコとナデイアは愛し合っているのだし、ナデイアは、ロッコに救われ、まともに生きて行こうとしている矢先である。しかし、ロッコは兄がナデイアを本気で愛していたこと昨日の尋常でない兄の怒りを通して理解し、兄の所業を責めるのではなく、自分を責め、兄に詫びる気持ちになっている。

○このロッコの犠牲的な精神の崇高さが、兄とナデイアの悲劇を呼び込んでしまう。不自然にもどったナデイアとシモーネには、自堕落な生活が待っていた。そして、廃人同様のシモーネが、去っていったナデイアを追いかけ殺すという行為をとめることがでいない。

それでも、どうしようもなく、墜ちていくシモーネを庇い救おうとするロッコは、殺人を知っても、最後までまだ庇おうとする。ロッコは、兄の今の姿は自分の責任だと思い続けているのだ。

○どうも、この映画の素晴らしさをうまく表現するのが難しい。最後にチーロが兄弟たちをうまく分析して弟に語る場面がある。ロッコは田舎から出て来たのが間違いだと思っている。チーロは兄のシモーネから、どんなに悲惨な生活だったかを教えてもらったという。

兄弟四人がそれぞれの生き方をしていく。母親のミラノに出てきた選択が間違っていたわけでない。母親の思いがうまく展開はしないのだが、誰かが悪いわけでない、それぞれの運命を生きている。兄弟たちはそれぞれの個性を生きる。

○アラン・ドロンがいい。「太陽がいっぱい」「冒険者たち」そして、ヴィスコンティの「山猫」と、なかなかの魅力的な俳優である。（2001.6.6）

（キャスト）

アラン・ドロン（ロッコ）
レナード・サルヴァトーリ（シモーネ）
アニー・ジラルド（ナディア）
スピロス・フォーカス（ヴィンチェンツイオ）
マックス・カルティエール（チーロ）
ロッコ・ヴィトラッツィ（ルーカ）

製作年：1960

映画館：横浜シネマ・ベティ「フランス映画の輝きイタリア映画の誘惑」

�ﾏ冒頭の一部に（・・・）脱字がある。一度は、適当な文字嵌めてみたが、どうもしっくりしない。貧困、貧しさ、餓え、飢餓かとも思うが、どうも違うようにも思う。祈りかも知れない。これは、別の機会に確認したい。

�ﾏスコセッシ監督「わたしのイタリア旅行」において、ヴィスコンティ監督は終生社会主義者だったと語られている。

�ﾏこの映画について、監督自身が語っている。
「この映画でねらったのは、息子たちのためにエネルギーを消費しつくそうとうする母親の物語だ。だが、息子たちの性格の多様性とそぞれの可能性を知らず、母親はあまりにも希望を持ちすぎて挫折する。もう一つは、移民の問題だ。悲惨な南部と近代的に発達したミラノなどの北部諸都市との接触を描きたかった。こうした意図のうえに、聖書だとか、トーマス・マンの書いた兄弟の物語をモチーフとする人物達、ジョヴアンニ・テストリーの人物と世界そしてドフトエフスキー「白痴」のムイシュキンに議せられたロッコという人物が生まれてくる」「魂の状態とか、心理とか、人間の葛藤を描く事こそ、それがたとえ、単に特殊な個人の人間的問題にかかってこようと、私にとってそれが社会的な問題に近づく方法なのだ。」

�ﾏベルトリッチ監督は、イタリア映画の特徴として、「メロドラマへの愛だ。私はベルディの生地パルマで育った。オペラすなわちメロドラマ。ブルジョアも庶民もオペラに深く親しんでいる。もうひとつは、それは、みんなネオリアリズモ（新しい現実主義）から始まった。」と語っている。ここから、ロッセリーニ、デ・シーカ、そして、このヴィスコンティ、さらに、フェリーニ、アントニオーニといったイタリア映画の監督たちをどう捉え直すことができるか、映画そのものを見直すことから始めるしかない。

�ﾏこの映画について、共同シナリオを担当しているスーゾ・チェッキ・ダミーゴが語っている。「当時のイタリアが抱えていた南部移民の問題ををテーマにしたが、政府の検閲が入り、赤裸々な部分のカットを余儀なくされた。イタリアで社会的な映画をつくるときには、必ずと言ってよいほど、政府が圧力を掛けてくる。右翼だけでなく左翼もそう」「ヴィスコンティは、これで嫌気が差して、現代のイタリア社会を描くのをやめてしまった。」

�ﾏヴィスコンティ作品は、「異邦人」68、「ベニスに死す」71、「地獄に堕ちた勇者ども」69、「ルードヴィッヒ　神々の黄昏」71、「家族の肖像」74といった順で見ているが、初期の作品は未見であった。どうも、「揺れる大地・海の神話」48や「夏の嵐」54、「白夜」57などと見ていない映画が気になるが、60年代後半からの作品群は、まぎれもなく同時代の映画的主題を展開したものであり、その映像美や音楽など、「ヴィスコンティ映画」に圧倒された。映画はどうしようもなくその時代を映し出すとともに、監督の持つ個性を刻印している。没落していく貴族階級、人間の美醜、フアシズムを呼び込んでしまうメカニズムを描きながらも、この「若者のすべて」でのナデイアと兄シモーネが悲惨な運命を生き、そして、弟ロッコが自分を責めつづけるという関係が、「ヴィスコンティ映画」の原型になっていると言えるのではないか。ついでに、わが黒澤明にも「白痴」(51)という大作があり、黒澤映画のすべてがあるという仮説を立ててみた。どうだろう。（2002.6.18）