（スタッフ）

製作＝松竹・山本武

脚本=猪俣勝人

潤色＝齋藤良輔

撮影＝長岡博之

音楽＝吉沢博　奥村一

（コメント）

○この映画の山田五十鈴は私にとっては、いままで見た映画の中では最高である。

その魅力を十分に引き出している映画があったのだと感心させられた（以前に、日本映画はひとつも女優・山田五十鈴を生かせなかったのではないかと書いたことがあるのだが）。

もともとうまい役者であることから、「歌行燈」でも言ったが、どういう役柄を充てるかで決まる。

この映画ではバーのマダム役なのだが、演じているのではなく、その役が山田五十鈴そのものでるというように映画に存在し、役柄のポイントである女のしたたかさとかわいらしさを発揮し、多々良純からは金を出させ、山村聡に相思相愛と思いこませ「虜」にし、若い池部良には激しく「真実」の思いをぶつけるなど、多様な人間性を曝して見せる。

○池部良は、山村聡の娘が抱く、病気の母と三人の「世界一幸福な家庭をつくりたい」という夢を叶えあげたい思う。そために、山村を汚職から手洗わせ、マダムとの縁も切らせるなど、命を賭けても守ろうとする。

それを聞いて、「あんたの一途な惚れ方が気に入ったよ」と池部が山田にほめられるというシーンがある。ここは、いいよね、こんなふうに山田に言われたら、男はいいよな、と思わせる。見ているものはぞくっとする。山田が池部に惚れていることがわかる。

○真夜中、酔ってふざけあっているうちに多々良純を殺し、山村を庇って、役所に火をつけるなどして警察に捕まった池部に、なにもかも承知して、山村と娘が面会に現れる。娘はいう。

「ずっとあなたを待っている自信はないけど、あなたが好きです」と言う。池部は、牢にもどって「あの娘が好きだと言ってくれた。おれは世界一幸福だ」と感激する。

○この映画は「現代人」「アプレゲール」「戦後が生み出した冷血漢」「汚職」といった世相をを描くとともに「家庭」「男女」における「愛」をテーマとしている。

ただ、病気の母の回復を願って抱く、娘の「世界一幸福な家庭」という夢が唐突に見えたが、映画は戦後の貧しい庶民の生活の中で「幸福」とはなにかと問い、それは「愛すること、愛されること」だといっている。（2000.11.22）

（キャスト）

山田五十鈴
池部良
山村聡
多々良純
小林トシ子
望月優子　

公開年月日：1952.9.3

映画館：横浜シネマ・ジャック「君美わしく・日本映画女優特集Part1」