（スタッフ）

製作＝レジェント・ピクチャーズ　
ベンチャーフィルム

企画＝利倉亮　田中美孝

プロデューサー＝江尻健司　深谷登

脚本：井土紀州
　
撮影＝斎藤幸一

音楽＝安川午朗

録音＝沼田和夫

編集＝酒井正次

（コメント）

○1994年に起きた実在の殺人事件をベースにしているという。これは傑作である。モノクロの押さえられたハイキー調。走る車の中。女性の顔。女性の声のモノローグ。ワンシーン・ワンシーンに無駄がなく、キャメラの位置も明確である。

室内の淀んだ色調やコンビニの荒れた画質もすべてが、この映画のリアリテイを支える。構成もしっかりしており、ファースト・シーンに向けて、映画は、事件を振り返る小島聖のモノローグをはさみながら、しっかりと展開して見せる。

○忘れないうちに、感心したシーンについてふれておこう。冒頭で、隣に住む鶴見を部屋に呼んで脅し、しまいに殺してしまうまでを展開を見せておいて、それを終盤で、キャメラ位置をアパートの外に置いて、鶴見辰吾の部屋と隣部屋を外から覗いているというように、撮って見せるシーンがある。

これは、全てが窓越しに見えるだけなので、部屋の中での様子は映し出されないのだが、これは、部屋の中に入ったキャメラで、すでに、見せられたシーンだとわかるので見ているものは、追体験しながら、客観的な目でこの事件を見直すということになる。

たとえば、映像の「切れ味」とは違った意味での生きた映像であり、これがまさに、映画が映画になる瞬間に見るものが立ちあっていることを意味している。

○この映画での印象的なシーンは、キャメラが固定されて、映る対象が動くの待っているという撮り方がされている。これは、野球のバッテイングでいう、打ちにいって凡打に終わるのではなく、ひきつけてたたくということや、釣りでいえば、釣り糸を垂らして釣れるのをじっと待つ、ということに通じている。

この映画でいえば、「ホテルの部屋を出る小島に後ろ姿。ドアを開ける。部屋に差し込む光。光に向かって消えていく小島の影、ドアが閉められる」というシーンであり、これ小島が、千原浩史と別れて、東京で学生生活をしている高校時代の男友達のもとへ行くというくだりである。さきほど、ふれた「部屋の外に置かれたキャメラ」も同じことであり、殺人事件の顛末を固定したキャメラで客観的に見ているということになる。

もうひとつ、挙げれば、見ているものが小島の千原に対する気持ちに疑問を感じているときに（こんな男と別れたらいいのにとおもわせておいて）、走る車、運転する千原、助手席に小島。ふたりの後ろ姿。間を置いて、小島の頭が千原の肩に凭れる。離れられないんだな。こういうシーン見て、あー、うまいなと思う。

ただ、このシーンがラストシーン（幼い小島と千原の子供（息子）が、近所の女の子と防波堤に並んで座って海を見ている。ちょっと空いていた隙間を女の子が詰める）につながるのだが、ここが、さきほど、頭を凭れるというように、自然ではないのが残念である。ねらいは同じだがわざとらしい。

方法を真似ただけではうまくいかないという例にもなっている。でも、この映画が純粋なラブ・ストーリーであることを告知する大切なシーンでもあるのだが。

○もう少し、ラストのシークエンスに、こだわると、刑務所から千原が出所してくるという何年後の話しは見ながらも、いらないよな。この前で終わっていいんじゃないか。蛇足だよなと思っているのだが、結果的に千原は小島が刺し殺す。海辺にでて、倒れている千原を抱き起こす。千原が「どこへ行こうか」という。小島「どこにも行かなくていいよ、こうしていればいい」というような会話があって、千原は息をひきとる。そして、さきほどのラストシーンにつながる。

○殺人罪で、こんなに短い刑期で出てこれるのかという疑問も感じた。「太く短く生きるんだ」という千原は、反省などしていないはずだよな。どうなんだろう。うまく、手錠のはめられた小島が連行される車内という「ファースト・シーン」に戻って、小島の押さえがきいて、しかも、可憐さも残るモノローグ（「ふあふあと浮かんでいるようでした。･･･」）も決まったところで終わってよかったのではないか。画面的にも、ラストのくだりが単調になっていたように思う。

しかし、実在の犯罪をベースに、ここまでリアリティを持って描き、しかも、端正な映画に仕上げていることに驚く。人間が生きることの難しさを思う。人は愛されたいと願い愛された記憶の中で生きる。

○この映画から「死んでもいい。死ぬしかないね。」というつぶやきが聞こえ、映画「RUSH！」の風に吹かれて縮こまる柳葉を想起しながら、「RUSH！」には、「生きていればいいことあるさ」という台詞もあったなと思い出してみる。（2002.1.17）

（キャスト）

小島聖　
千原浩史　
鶴見辰吾　

公開年月日：2000.5.6

映画館：シネマ・下北沢