(スタッフ)
製作=今村プロダクション+TBS
プロデューサー=高橋松男
撮影=栃沢正夫
録音=武重邦夫
編集=岡安肇(岡谷洋名義)
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(コメント)
いままでの二編の未帰還兵を追っていた成果が、この「無法松故郷へ帰る」に結実する。今村の演出意図が明確に押し出されてくる。タイ篇で登場した未帰還兵で、タイとビルマの国境付近で農業を営む藤田松吉が1973年に日本に一時帰国が実現する。今村は、松吉とは3年の付き合いであり、気性の荒さや一本気なところで、九州(こちらは長崎だが)の出身ということで、「無法松」と名づけている。なぜか東京に住む妹と、その子供たちに会うことになる。どうも事情があって、長崎の兄とは離れ、また、夫運にも恵まれず、大きくなった子供たちと東京暮らしをしているという。妹とは、8歳ぐらいの時に別れて以来ということで泣いて抱き合う。
兄(藤田フジオ)に会いに長崎へ向かうのだが、もともと仲が悪かったこともあってか、気が進まない様子も見える。松吉は原爆で長崎は絶滅したものと思いこんでもいた。兄は怒りっぽく友人もいないというが、馬喰などもやりながら、逞しく生き残った気概があり、妹のことを頼むと言い出したとたんに逆鱗に触れる。松吉もタジタジになる。ここで今村は、捨てられた民という棄民ということばを想起し、松吉が棄民で、捨てた側の象徴として兄フジオに見てとる。
落ち込む松吉に、今村は、松吉の「彼女」を捜しあて面会させるのだが逆効果に終わるが、これはなんだか今村らしい選択ではあった。松吉は、じぶんの戦病死という確定に、森田という同級生の証言が関係していることを不信に思っていることから、兄と森田が、「一時金」欲しさに結託し作り上げたものだという真相を明かそうと役所で執拗に調べる。森田と兄の前で、森田の証言の嘘を暴く。だからどうすることもできない話だが、兄に啖呵きって見せ、兄に一矢を報いてその場を去るという場面が演出される。
じぶん恩給の受け取り人を東京に住む妹にしタイに戻る。日本はまともではない、お金に惑わされているという。平和とは思えない。
松吉は、靖国神社にも行くが、ここに戦友の魂が帰ってきているとは思えない。死んだときの火の中、土の上にあるんだと思うと語る。また、今村たちが言うから来たので、じぶんから皇居のある宮城に行くつもりはなかった。戦地に日本兵を置き去りにしてきたことは許せないとも語る。(国に残っていながら、兄などが、天皇の悪口を言うのも許せない。)
この映画を見ていて、この藤田家の兄、弟、妹という関係のなかで、弟の立場と気持ちがよく分かる気がした。1972年にグアム島で発見された横井さんの話を帰国時すぐに今村が向けると、松吉は、あんなやつがいたから日本は負けたんだといって吐き捨てる。なかなか印象的だ。今村は、終わりに、国防予算が3兆円になったにもかかわらず、遺骨発掘調査費が少ないことを指摘する。
今日テレビで、ダイエー元会長・中内功の昨日の逝去(83歳)に関連して、ノンフィクション作家の佐野眞一(中内功を題材にした「カリスマ」という著書がある)は、中内功はフィリッピン戦線の生き残りとして、「棄民」という意識の中で、生涯、反国家という信念も持ち続けたと話していた。戦後はずうっと統制経済が続いている。消費者に物価を決めさせられば、いまの物価は二分の一になると言っていたという。佐野はつけ加えて、最後は再生再建機構という国家機関に両手をもがれたと。
(「ゆきゆきて神軍」へとつながる?)(2005.9.20)
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(キャスト)
藤田松吉
放映:1973
カラー/スタンダード/16mm/47分
映画館:川崎市民ミュージアム「今村昌平の世界」
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